三為(さんため)とは
ではどういう仕組みなのか。まずは民法の規定を見てみましょう。
民法第537条(第三者のためにする契約)
①契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは、その第三者は、債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する。
②前項の契約は、その成立の時に第三者が現に存しない場合又は第三者が特定していない場合であっても、そのためにその効力を妨げられない。
③前一項の場合において、第三者の権利は、その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する。
一番上の図で言うと、
債務者=A
当事者の一方=B
第三者=C
ということになります。
つまり、A⇒Cへ直接所有権移転をさせるための要件は2つ。
・Bが所有権を取得させるCを指定する。
・Cが、Aに利益享受の意思表示をする。
この法律効果として、売買代金は「C⇒B⇒A」と流れ、所有権は「A⇒C」へ直接移転できるようになります。
保険の契約などはこれに当たりますよね。
上の図で言うと
A=保険会社(諾約者)
B=被保険者(要約者)
C=受取人 (受益者)
となります。
もっとも、保険の場合は保険法により、Cは当然に利益を享受することになっています。
実務での特約処理
◆AーB契約の特約
AーB間の売買契約時に以下のような特約を入れておきます。
特約(例)
買主は、本契約の締結日から残代金支払日までの期間(以下「指定期間」という。)に、本物件の所有権の移転先となる者(買主を含む)を指定して売主に書面で通知するものとし、売主は、本物件の所有権を買主の指定する者(以下「指定第三者」という。)に対し、買主が売主に売買代金全額を支払いしていることを条件として直接移転させ、指定第三者への所有権移転登記申請手続きを行うものとします。なお、指定第三者は指定期間内に所有権の移転登記が受けられる者とします。
また以下の内容の特約を追加すると、より良いでしょう。
・Bが、Cを見つけることができない場合や、Cから支払いを受けれない場合であっても、Bは代金を支払い、Bが所有権移転を引き受けること。
・Cが反社会的勢力であった場合、Aは所有権の移転を拒絶できること。
・Cの受益の意思表示の受領権限をBに与えること。
(不動産売買の場合、AとCが連絡を取ることは実際にほぼ無いため)
◆BーC契約の特約
BーC間の売買契約時に以下のような特約を入れておきます。
特約(例)
本物件は登記名義人(令和〇年〇月〇日付で売主に対し、第三者のためにする特約付で本物件の売買契約を締結済)が所有しており、本物件の所有権を移転する売主の義務については、売主が買主より売買代金全額を受領した時に、その履行を引受けた本物件の登記名義人である所有者が、買主に所有権を直接移転する方法で履行することとします。ただし、売主が登記名義人より本物件を取得して、買主に移転することとなった場合、売主は本物件の所有権移転登記を引受けたうえで、買主に所有権移転登記を行うものとします。
なお、BC間の売買契約時点では、所有者はAですので、他人の物を売買するような恰好となります。これも民法に規定があります。
民法第561条(他人の権利の売買における売主の義務)
他人の権利を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。
BがAから所有権を取得してCに移転する義務を負う、ということです。
これを、上記特約にて、AからCに直接所有権移転する方法で行う、と処理しています。
このようにして、「C⇒B⇒A」と売買代金を支払い、所有権は「A⇒C」へ直接移転できるようになるわけです。
ここで、宅建業に詳しい方は「あれ?」と思うかもしれません。
売主:宅建業者、買主:非宅建業者の場合、他人物売買は原則禁止されています。
これについては、2007年の宅地建物取引業法施行規則の改定により、上記①第三者のための契約の場合には、例外として他人物売買が禁止されないこととなっています。(宅地建物取引業法施行規則第15条の6第4号)
また、実務上の仲介会社としての注意点をいくつか挙げておきます。
◆その他注意点
<注意点>
・B単独でも決済ができることを、しっかりと確認すること。(Cが見つからないとBが代金を払えない、というケースが起こりうるということを肝に銘じておくこと。可能性は十分にありますし、大トラブルになります。Bの信用は重要です。)
・Bが宅建業者であること。
・Cが反社の際には拒絶できるようにしておくこと。
・ABとBCの決済は同日に行うこと。
・BC間の契約は、不動産の他人物売買であること(単に所有権を取得させる無名契約は×)
購入者にとっては?
この仕組みは、Bが安く不動産を仕入れて、高い金額でCに売却し、Bが利益を得るためのスキームです。
ということは、エンドユーザーのCは、通常よりも高い金額で購入することになります。
この手法は、投資用物件の売買で横行しています。
なので、ワンルームや新築APなどを購入する方は要注意です。
シェアハウス業者が金融機関と結託して、エンドユーザーにその不動産の価値以上の融資付けをして、相場よりかなり高く売却し、問題となったことは記憶に新しいと思います。(実際に、買った瞬間にエンドユーザーの大損が確定するような価格で取引が行われていました。)
Cはよほど不動産に詳しい方でない限りは、このスキームに乗らない方が無難です。
不動産仲介会社にとっては、AB間の契約に入ることはよくあるケースでしょう。
その場合は上記の注意点(リスク)に十分に気を付けて、取引を行うようにしましょう。
少しでも参考にしていただければ嬉しいです。
ではまた。