港区のタワーマンションの例
「タワマン節税」とは、実勢価格と相続税評価額の乖離が大きくなる、いわゆるタワーマンションを購入することによって、相続税を圧縮する節税方法のことです。
実際にどの程度の効果があるのでしょうか。
例えば、港区のとあるタワーマンションの例を見てみましょう。
<マンションの概要>
・2006年築
・30~40階
・100㎡
の場合、
実勢価格:1億3,000万円
に対して
相続税評価額:3,600万円程度
差額⇒9,400万円の評価減
となります。
現金で1億3,000万円を持っているよりも、
不動産で所有した方が大きな節税効果が得られることとなります。
相続税の最高税率は55%となりますが、その場合、
9,400万円×55%=5,170万円も支払いが少なくなることになります。
不動産の相続税評価額
タワーマンションに限らず、
不動産は「実勢価格 > 相続税評価額」
となります。
◆相続税評価額
相続税評価額は以下のように計算されます。
土地
⇒ 路線価(実勢価格の80%が目安)
建物
⇒ 固定資産税評価額(実勢価格の70%が目安)
◆賃貸している場合の土地評価
土地は「貸家建付地評価」となります。
この場合、通常の評価(自用地)に
「1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合」を乗じます。
借地権割合は路線価図に記載されています。
上記の港区のマンションは
「借地権割合;70%」でした。
借家権割合は30%、
賃貸割合は賃貸に出している割合なので、
今回は100%とします。
よって、
「1ー0.7×0.3×1=0.79」となります。
つまり、土地については、
「実勢価格×80%×79%」となるので、
約4割、低い評価にできます。
◆賃貸している場合の建物評価
建物は「貸家評価」となります。
この場合、通常の建物価格に
「1-借家権割合×賃貸割合」を乗じます。
よって、
「1ー0.3×1=0.7」となります。
つまり、建物については、
「実勢価格×70%×70%」となるので、
約5割、低い評価にできます。
◆01|例の場合
ちなみに、上記の港区のタワーマンションについては、
概ね以下の通りとなります。
土地の路線価評価:3,450万円
貸家建付地評価で21%減
⇒2,730万円
建物の固定資産税評価:1,260万円
貸家評価で30%減
⇒880万円
合計:約3,600万円
実際には、高層階で坪450万円程度で売れるマンションですので、
実勢価格は約1億3,000万円となります。
つまり、実際の評価の3割以下まで評価を圧縮することができます。
そのため、一時期、富裕層が相続対策でこぞってタワーマンションを購入していました。
一人で億ションを3、4戸購入する方などもざらにいらっしゃいました。
◆タワマンが注目された理由
なぜタワーマンションが注目されたのか。
それは実勢価格と相続税評価額の乖離が大きいためです。
タワーマンションは小さい土地に高層の建物を建てます。
土地はマンションの所有者で共有となりますから、
一人ひとりの持分にすると、面積が少なく、評価が低くなるわけです。
また、タワーマンションは高層階にいけばいくほど高額になります。
一方で、相続税評価額は低層階であっても高層階であっても評価は同じです。
そのため、高層階の住戸を狙えば、
より実勢価格と相続税評価の乖離が大きくなるわけです。
以前は不動産会社のチラシで「圧縮率」という数値を記載していたこともありました。
さすがにあからさますぎたのか、最近では自重されています。
タワマン節税のリスク
・過度な相続対策として
否認されるリスク
・税制改正リスク
2022年、路線価評価を否定した最高裁判決がありました。
そもそも、この路線価評価とは、財産評価基本通達に基づく評価方法です。
これに基づいた評価方法が否認された、ということです。
◆路線価評価否定の最高裁判決
以下、要旨をそのまま記載します。
<要旨>
1 相続税の課税価格に算入される財産の価額について、財産評価基本通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、当該財産の価額を上記通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることは租税法上の一般原則としての平等原則に違反しない。
2 相続税の課税価格に算入される不動産の価額を財産評価基本通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることは、次の⑴、⑵など判示の事情の下においては、租税法上の一般原則としての平等原則に違反しない。
⑴ 当該不動産は、被相続人が購入資金を借り入れた上で購入したものであるところ、上記の購入及び借入れが行われなければ被相続人の相続に係る課税価格の合計額は6億円を超えるものであったにもかかわらず、これが行われたことにより、当該不動産の価額を上記通達の定める方法により評価すると、課税価格の合計額は2826万1000円にとどまり、基礎控除の結果、相続税の総額が0円になる。
⑵ 被相続人及び共同相続人であるXらは、上記⑴の購入及び借入れが近い将来発生することが予想される被相続人からの相続においてXらの相続税の負担を減じ又は免れさせるものであることを知り、かつ、これを期待して、あえて当該購入及び借入れを企画して実行した。
要は、『今後、財産評価基本通達に則った評価方法だとしても、やりすぎた節税は否認されることがありうる』ということです。
今回の場合は、90歳を超える被相続人の相続対策として、10億近くの借り入れをおこしてその資金で不動産を購入し、結果、相続税の総額を0にした、というものでした。
相続直前の過度な対策は要注意、と言えます。
◆固定資産税の見直し
他にも、2017年にタワーマンションの固定資産税が見直されています。
以前は低層階も高層階も評価に違いは無かったのですが、税制改正により、1階層上がるごとに固定資産税の負担が0.256%増えることとなりました。
この制度自体でタワマン節税を抑制するほどの影響は無いのですが、今後、相続財産評価額についての税制改正の可能性を予見させます。
まとめ
・タワマン購入により評価額を
約7割を圧縮できる。
・過度な節税は否認されるケースも。
今後の税制改正リスクも孕んでいる。
いまだに、タワマンは節税効果が高いことも事実です。
(リスクがあるためか、最近は勧める人が減ってきました。)
リスクを理解したうえで、最悪のケースも想定しながら対策を行っていくのが良いでしょう。
具体的には、相続発生の直前は避け、多少時間をかけながら、徐々に対策を行った方が良いでしょう。また、タワマン節税に短期で集中しすぎるのはリスクです。安易に考えず、他の可能性も探りながら、慎重に対策を考えましょう。
少しでも参考にしていただけたら嬉しいです。
ではまた。