購入編

狭小住宅、買っても良いのか?

なぜ狭小住宅が増えたのか

近年、狭小の一戸建が増えています。
40㎡~50㎡程度の敷地に、3階建を建てて、3LDK~4LDKの間取りを入れて販売されているものです。
私が経験したことのある最も狭小な住宅は、土地面積33㎡の新築戸建でした。
車庫無しの3LDK。値段が安かったので、売りやすかったことを記憶しています。

さて、どうして狭小住宅が増えたのか。
それは核家族化と少子化、長年にわたる不景気が原因だと考えられます。
建売の用地となる土地は、もともと大きな一軒家の敷地であることが良くあるケースです。
「一宅地50坪程度の敷地に年配のご夫婦が住んでいて、既に子供は独立、維持が大変なのでマンションに買い替え」、というような場合ですね。

一都三県の市街地であれば、50坪を一宅地で購入できる層が少なくなります。
事業者は、売りやすくするために、できる限り細かく敷地を分割し、1棟でも多く分譲しようとします。その方が、利益が大きくなるためです。


狭小住宅は、「狭くても便利なところに住みたい」という購入者のニーズにマッチします。
特に、いまの30~40代の世代は長年の不景気により、節約志向が強く、親とは別居し、子供も1~2人の世帯が多いため、狭小で安価な戸建を望む傾向にあります。
当然、事業者は売れやすい方が良いし、棟数を増やした方が利益が大きくなるので、できる限り土地を細分化するようになります。

狭小戸建のデメリット

①隣地との間隔が狭い
②収納が少ない、

 同線が悪い
③敷延の土地ができる
④実は割高である

①隣地との間隔が狭い


購入するときはあまり気に留めませんが、隣棟との間隔が30~40cmくらいになっていることがあります。
無理やり棟数を増やしているため、このようなことが起こります。
民法で隣地境界線から建物を50cm離さなければならない、と規定があるのですが、隣地との合意があれば、近づけても何ら問題はありません。
同じ分譲地内であれば、同じ分譲主ですので、特に合意無く、狭い間隔で建築するのは問題無いのです。

問題となるのは、外壁等の工事や、建物を再建築する工事のときです。
足場を組むときも他人地を利用する必要が出てきますし、資材の搬入もしづらい、狭い場所での工事がやりづらいことは、皆様も想像できると思います。

また、避難経路として、狭いと不都合があります。
室外機などを置いたらもう通れません。
そのため、防災面で不安があります。
また、家が密集していますので、外から見えづらくなります。
したがって、防犯面でも不安があると言えるでしょう。

②収納が少ない、動線が悪い


これも、購入時には気づきにくいポイントです。
新築戸建の内覧のときは、LDの広さや陽当たり、設備等に目が行きがちです。
未完成の状態で購入することも考えられますから、余計に気づきにくい。


事業者は、LDや居室を狭くすると売りづらいので、どこを削るかというと
「収納」「トイレ」「玄関、ホール」です。
実際に住んでみて、思いのほか収納が少なく、別途収納家具を購入する羽目になり、結果、利用できるスペースが狭くなる、ということが起こります。
各部が狭いので、家具が入らない、といったこともよくあります。
最近の冷蔵庫や洗濯機(ドラム式)は大きいですから、実際に入らないこともあると思います。

3階建は動線が悪くなりがちです。
「1階に水回りがあって、バルコニーは3階」
「2階にリビングがあるけど、1階か3階にしかトイレが無い」などです。

また、これは動線とは異なる視点ですが、
「ホールがなく階段が続いているため、空調の仕切りができず、熱効率が悪くなる」といったようなこともよくあるケースです。


生活するうえで間取りは重要なのですが、広さと価格だけで判断してしまうお客様が多いと感じます。

③敷延の土地ができやすい


「敷延(しきえん)」とは旗形状の土地のことです。
通路部分に車庫があり、奥に家があるような建売をよく見かけると思います。
間口(幅のこと)が足りないので、手前と奥にすることにより、棟数を増やしているのです。
当然奥は安いですが、建物に囲まれて陽当たりは悪く、建替えや解体等の工事がしづらくコスト高になることも考えられます。

何より、敷延は更地の状態では非常に売りづらいです。
不動産会社は、敷延の土地を更地で売るようなことはしません。
なぜなら売れないからです。


敷延は、「建てれば売れる」のです。
建てれば土地形状のことがぼやけるためです。
購入者は「この値段で十分な居住空間が取れている」という点だけに目が行ってしまうのです。
敷延を将来売却することがあれば、その時には苦労するでしょう。

④実は割高である。


ぱっと見の値段に騙されてはいけません。
恐ろしく土地代が高く分譲されているケースが多く見られます。
例えば、市街地で以下のケースを比べてみましょう。

 A.15坪で4,980万円、3階建の3LDK
 B.30坪で6,580万円、2階建の4LDK

不動産業者からすると、Aの方が売れやすいのです。
なぜなら、購入できる層が多いためです。
年収700~800万円の世帯が、十分に買えてしまう価格帯だからです。


4,980万円を35年ローン、変動金利0.5%で組むと、
「月々約13万円」です。
一都三県の市街地で賃貸住宅に住んでいれば、『こんな値段で戸建てが買える!』と思ってしまうのも無理はありません。

AとBを比べてみましょう。中身は以下のようになります。

A 建物:2,000万円、一坪あたりの土地の単価:200万円
B 建物:1,800万円、一坪あたりの土地の単価:160万円

3階建の方が、建築費が高くなります。
構造計算が必要になり、工期もかかるためです。
それにしても、土地の坪単価がずいぶんと違うことがお分かりいただけると思います。
Bが、そのエリアの通常の相場だとすると、2割以上土地を高く購入することになります。

狭小住宅の今後

狭小住宅のメリットは、総額が抑えられていることです。
『月々この程度の支払いで一戸建てを持てるなら』と購入する方が多いのです。

当然、支払いや立地、様々な点でメリットを享受できます。
ただ、皆様が本当にデメリットもすべて把握した上で、狭小住宅を購入しているでしょうか。


営業マンは、わざわざ「割高です!」「収納が少なく不便です!」「将来売りづらいです!」とは言いませんよね。

しかも、狭小住宅が増え始めたのはここ20年程度のことです。
2100年には日本の人口が6,000万人になると言われているなかで、狭小住宅はどんどん増えています。


テレワークが浸透し、バーチャルでの打ち合わせもできるようになったら、わざわざ利便性を求めて、悪条件の居住空間に何千万円も支払うでしょうか。
今後、不動産の価値は変わっていく可能性が十分にあるのです。

2022年現在、建築費は高騰しています。
値段はどんどん上がっていますが、それでも細かくすれば売れるから、建売業者は狭小戸建を量産しています。

狭小の戸建を購入する際は、ご自身の優先順位をちゃんと考慮し、狭小戸建のデメリットをしっかりと把握したうえで、検討するようにしましょう。

少しでも参考にしていただけたら嬉しいです。
ではまた。