故障や不具合が起こったら?
一般的な不動産売買契約の約款では、民法と異なる規定をしています。
①マンションの場合
売主は、引渡しから3カ月以内に通知を受けたものに限り、以下2点の専有部分の不具合に限定して修補の義務を負います。
①給排水管の故障
②シロアリの害
※設備の不具合については後記
あるとすれば、給排水管の故障でしょう。
引渡し後、
自分のお部屋の給排水管が故障した場合、
3カ月以内に売主に通知すれば、
売主はこれを直さなければならない、
という規定になっています。
ちなみに、これは設備とのジョイント部分の漏水や、共用部の配管故障を含みません。
なお、故障が発生した場合は、
買主はまず売主に通知し、
売主が故障している箇所を確認したうえで、
直すようにしましょう。
売主が確認する前に直してしまったら、
その請求が正当なものかどうかが分からないためです。
②戸建の場合
売主は、引渡しから3カ月以内に通知を受けたものに限り、土地および以下4点の建物の不具合に限定して修補の義務を負います。
①雨漏り
②構造耐力上主要な部分の腐食
③シロアリの害
④給排水管の故障
※設備の不具合については後記
これらは発覚すると、売主にとって、費用面で大きな負担となります。
トラブルを避けるためにも、
売却する際は自己の建物の状況をチェックしてから売却することをお勧めします。
ところで、構造耐力上主要な部分とは、
建築基準法施工令第1条第3号に明記されています。
基礎や柱、屋根版などです。
③土地の場合
土地については、特に項目が限定されていません。
なお、引渡しから3カ月以内に通知を受けたものに限り責任を負う点は同様です。
土地の不具合といえば、以下のものが考えられます。
①地中埋設物
②土壌汚染
③越境や境界トラブル 等
地中埋設物は、ガラ(建築廃材)や井戸、浄化槽、既存建物の杭などが埋まっていた場合の撤去費用の負担が該当します。
昔は建物を解体してその廃材をそのまま埋めてしまうこともよくあったようです。
駐車場などは要注意です。
掘り返すと地中からごみやコンクリートの塊が出てくることがよくあります。
既存建物の杭も要注意です。
建物解体前提であったとしても、
必ず設計図書等により、
杭の存在の有無を調査しましょう。
土壌汚染については、
地歴に注意してください。
以前化学薬品を使っていたとか、
近隣にそういった施設があるとか、
売主なら通常把握しているでしょうから、
思い当たる点があれば事前に調査・告知をするべきです。
基準値を超える土壌汚染があった場合、
土壌改良が必要となり、相応の費用がかかります。
越境や境界トラブルも同様です。
土地家屋調査士などの専門家を入れて、
目に見える部分の確認は隣接地との境界の合意をしたうえで、
売買を行うことが望ましいでしょう。
④設備の不具合について
売主は、「主要な設備」につき、引渡し後7日以内に通知を受けた不具合に限り、修補の義務を負います。
「主要な設備」とは、給湯器やトイレ、換気扇、エアコン等の付帯設備関係のことです。約款の内容によっては免責(責任を負わない)とされていることもあります。
通常、「設備表」という書類に
設備の有無と故障不具合の有無を、
告知書類として売主が買主に提示をします。
故障不具合「無」と記載されていたのに、
実際に確認してみたら故障していた、
というケースに、売主に修補義務を負わすものです。
金額にすると数万円程度で収まることの方が多いですが、トラブルの頻度としては非常に多い項目です。
売却の際は、設備の動作確認をしっかりと行い、不具合のありそうな箇所は「不具合有」と、事前に買主へ告知しておいた方が無難です。
後々のトラブルを避けるよう、
しっかりと確認し、告知を行いましょう。
(参考)民法との違い
<期間>
民法だと
「買主が不具合を知った時から1年」とされています。
これでは売主が長期にわたり責任を負うことになり、適当ではありません。
そのため、不動産売買契約の標準的な約款では、
「引渡しから3カ月」としています。
※法人、宅建業者の場合は別規定有
なお、カウントは引渡しの翌日から数えます。
(初日不算入の原則)
<範囲>
上記では、マンションや建物は箇所が限定されていますが、
民法では特に範囲を限定していません。
中古物件の売買で広範囲にわたって売主の責任とすると、引渡し後のトラブルが頻発するため、修補に多大の費用を要する項目に限定しています。
そのため、設備は売主の契約不適合責任の範疇外とし、設備の修補義務、という恰好で別規定としているのです。
<効果>
不動産売買契約の標準的な約款では、
売主の義務を修補に限定しています。
民法の場合は、
まず修補や代替物の引渡しを請求し、
その履行がされない場合は代金減額請求ができます。
更に、その債務が履行されない場合、
契約解除、損害賠償請求ができます。
売主の告知義務
売主は、買主の購入する判断に重要な影響を及ぼすであろう事実について、告知をしなければなりません。
これは特に民法に明文化された規定があるわけではありませんが、重大な事実の不告知は信義則違反となります。また、不動産売買契約の標準約款では「物件状況等報告書」という書類の交付を売主に義務付け、売主の告知義務を明文化しています。
「隣人と境界で係争があった」
「建物内で自殺があった」
「すぐ近くに暴力団事務所がある」
「過去に雨漏りがあった」
「過去に火事があった」
「近所に不良住人がいる」等
なお、告知義務違反は上記の契約不適合責任とはまた別の問題です。
不法行為として構成した場合、買主が知った時から3年以内であれば損害賠償責任を請求できます。
どこまで言わなければならないのか、
という点においては微妙ですが、
知っていることはすべて話しておいた方が無難です。
「人の死」については、令和3年に宅建業者向けにガイドランが公表されました。
それによると、病死(すぐに発見された場合)は告知しなくてもOKだとか、特殊清掃が入ったとしても賃貸の場合は3年経過すれば告知しなくてもOKだとか、記載があります。
ただ、それで売主の告知義務が完全に免れるとは言えません。
隠すと長期間、しかも多額の賠償責任を追及されるリスクを負うことになります。
売主に積極的な調査義務までは求められていませんが、
知っていることは包み隠さずに告知するようにしましょう。
まとめ
・買主にとって不利益なことは
すべて告知すること。
・売却時には、不具合を可能な限り
チェックすること。
これが、トラブルを防ぐために重要なことです。
売主は、契約で合意した状態で買主に物件を引渡す義務を負います。
そこに虚偽や不具合があると、それに対して責任を負わなければなりません。
『不利なことを積極的に伝えたりせずに、
そのまま売ってしまいたい。。』
この心理は分かりますが、
その事象によっては多大な費用を請求されることもあります。
安易に考えてはいけません。
最近では、大手不動産会社では設備や建物の診断や土地の測量サービス等を行っていたりします。
また、トラブル防止のために、売主の告知書類もチェック項目が増え、ますます細かい内容となってきています。
また、買主側としても、検査機関がチェックした報告書や、売主の告知書類がしっかりと整っていれば、安心して購入を検討できるでしょう。
売却にはこういったものをしっかりと準備し、不利なことは包み隠さず、それをどうカバーするか考えて、上手に売却していきましょう。
そして、そういったことを適切にアドバイスしてくれる不動産会社を見つけることが、トラブル回避にはとても重要です。
少しでも参考にしていただけると嬉しいです。
ではまた。