売却編

立退料の算定

不動産を売却するとき、賃借人に退去してもらった方が高く売れる場合があります。
例えば、建物が老朽化して管理コストがかかるため、建替えた方が良い場合などがそれにあたります。
それでは、賃借人に退去してもらうための、いわゆる「立退料」は、いくらが適正と言えるでしょうか。

結論は、大まかに以下の3つの要素で構成されると言えます。

構成要素

①移転費用の補償
②営業権の補償
③利用権の補償(借家権価格)

はじめに

【更新拒絶】⇒正当事由が必要。
【契約期間中の退去】⇒交渉による合意解除。

まず、賃貸借契約期間中に、法的に賃借人を退去させることはできません。
賃貸借契約期間中に退去してもらうためには、賃借人と交渉して、合意解除するしかありません。

一方、契約期間満了時であれば、契約期間満了前6カ月から1年までの内に、更新拒絶の通知を出すことにより、契約を終了させることができます。
ただし、契約期間満了により、契約を解除する場合、オーナー側には「正当事由」が必要です。
「正当事由」が認められるハードルは高く、滅多に認められるものではありません。借地借家法という法律により、賃借人が厚く保護されているためです。

立退料は「正当事由」をいわば補完する項目となります。
そして、立退料の金額は、「オーナーの正当事由の度合い」と「賃借人の物件の必要性の度合い」を比較して、その強さに応じて決定されます。更に、契約関係から生じた事情等が考慮されます。それらはたとえば、以下のような点です。

①移転費用の補償

移転費用とは、移転先の賃貸借契約に要する費用、引越し代、設備・内装の工事費用等が挙げられます。
移転先の賃貸借契約に要する費用には、敷金(保証金)、礼金、仲介手数料、火災保険、保証料、鍵交換費用等です。

例えば月額20万円程度の住居であれば、100万円程度必要になります。
これが店舗であれば、保証金:賃料6ヶ月分程度が目安になりますので、同じ賃料でも200万円近くかかる場合もあります。更に、内装・設備の工事費用が必要となることもあるでしょう。

②営業権の補償

いわゆる「のれん」に相当する分です。その場所で培ってきた超過収益を生み出す源泉のことですが、この算定は千差万別、算定基準の設定がとても難しい。

賃借人の月額純収益の10倍程度を立退料と認めた判例があります。移転をすることによる、経済的損失(相当期間にわたる顧客減少による減少分等)の填補が算定根拠として挙げられます。

しかし、立退料の提供により正当事由を補完することができない、とした判例もあります。
対象となった店舗の場所が小売店として極めて有利な条件を具備していること、借主が26年営業を継続し、商店街の発展に寄与してきたこと、代替物件が見つけられないこと、等が理由です。

一方、営業補償が認められないようなケースもあります。例えば、通信販売の事務所のような使用方法の場合で、顧客が店舗を訪れることも少なく、営業上の損失がほとんど生じないと判断されるような場合です。

このように、「移転に伴う経済的損失」が算定根拠となり、それをいかに立退料に反映するか、が要点となります。

③利用権の補償(借家権価格)

賃料は粘着性(簡単に増減しない)があるため、賃借人が実際に支払っている賃料が、相場よりも低いケースがあります。この場合の賃料差額は「借り得」と言われ、賃借人の経済的利益を構成し、借家権の価格となりえます。

この場合、「現在賃借人が支払っている賃料」と、「立退きに伴う移転先の賃料」との差額の一定間に相当する額、が借家権価格を構成します。
また、賃借人の退去により、オーナーが直ちに自己の需要に供することができる状態となり、経済的利益の回復が生じる場合、その分は借家権価格の構成要素として考えられます。

まとめ

以上のように、立退料の算定は相当に複雑です。『オーナーと賃借人の事情』『契約締結の経緯、内容』『賃借人の損失補償』等が判断材料となります。

立退料はあくまで『正当事由を補完するもの』です。そもそも正当事由が無い場合、契約期間中の一方的な立退き請求をする場合は、上記の考え方を参考にしながら、交渉により合意を取り付ける必要があります。

※あくまで、交渉は本人か代理人弁護士が行わなければなりません。不動産会社等の第三者が交渉を行うことは非弁行為という法律違反になりますので、ご注意を。

参考書籍

①『立退料の決め方』

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②『借地借家の正当事由と立退料』
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